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アトピー性皮膚炎外来

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湿疹・皮膚炎(アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎、貨幣状湿疹など)アトピー性皮膚炎の治療法、予後に対する私たちの姿勢

私たちは、アトピー性皮膚炎は、基本的には治癒する病気と考えています。確かに、軟膏を一切塗らなくてもよいという状態にいたるまでには、数年が必要です。

しかし、私たちの治療法に従ってくだされば、必ずその時期が来ます。ただし、そのためには、ステロイド軟膏、タクロリムス軟膏、光線療法などにより皮膚病を可能な限り抑え、それを必要最小限の軟膏で維持することが不可欠です。

皮膚病の増悪は、最終的な治癒までの期間を引き延ばします。焦らずに、徐々に軟膏を減量していくことが肝心です。

東北大皮膚科では、その方針に則ってアトピー性皮膚炎の患者さんを治療しています。



アトピー性皮膚炎に対する東北大皮膚科の考え方

1、はじめに
現在、アトピー性皮膚炎に関しては、様々な情報が錯綜しています。それらの情報を系統的に組み立てて、アトピー性皮膚炎を正しく理解することは容易なことではありません。そこで、東北大皮膚科では、以下に紹介する公式を利用して患者さんたちにアトピー性皮膚炎をバランスよく理解して頂こうと考えています。
また、私たちは、この公式に基づいて個々の患者さんの病態、病勢を理解し、それを踏まえて、この公式を利用してバランスよく治療することを心がけています。
2、アトピー性皮膚炎の公式
アトピー性皮膚炎の公式を紹介する前に、アトピー性皮膚炎以外の一般の疾患の公式をお示しします。それは、いまさら私たちが紹介するまでもなく、
疾患=E(外因)x I(内因)
です。すなわち、細菌、ウイルス感染、食餌、環境汚染など外的要因と遺伝、あるいは、体質とよばれる内的要因により疾患に対する感受性が決定されるという考え方です。高血圧を例に取れば、家族性あるいは遺伝的な高血圧の素因と、食塩の摂取量、ストレスなどにより発病します。これに対して、私たちははアトピー性皮膚炎に関して、よりその疾患概念を理解しやすいものとする目的で
アトピー性皮膚炎(AD)= AxBxCxDxExFxG
A(Air):ダニなどを中心とした環境抗原
B(Barrier):角層のバリアー機能
C(Cellular immunity):主に、Th2細胞により媒介される細胞性免疫反応
D(Diet):食餌性抗原
E(IgE):IgE-mast cell 相互作用により引き起こされる一連の反応
F (Fungus):腸管におけるカンジダの増殖、あるいは、皮膚常在真菌であるマラセチアの関与
G(Genetics):遺伝
という公式を提唱しています。以下、なぜこの公式が成立するのか、また、この公式がどの様に役に立つのかを説明していきたいと思います。
3、アトピー性皮膚炎の発症機序
これまでに、アトピー性皮膚炎の発症機序に関して多くの報告がなされ、次第にその詳細が明らかになりつつあります。ここでは、その詳述はさけて、図1を利用し、アレルギー、免疫学の専門でない方にも理解できるように簡単にその機序を説明してみます。アトピー性皮膚炎の皮膚局所における反応は、若干の異論はありますが、1)マスト細胞表面におけるIgEと種々のアレルゲンとの反応により引き起こされるマスト細胞の脱顆粒によるいわゆるI型過敏症に基づく炎症反応と、2) T細胞、特にTh2型細胞がランゲルハンス細胞、真皮樹状細胞などの抗原提示細胞と反応した結果産生されるIL-4, IL-5 などのサイトカインにより引き起こされ好酸球主体の炎症反応により説明できると考えています1)。
そこで、今回のアトピー性皮膚炎の公式の中には、発症に関与する因子として細胞性免疫(cellular immunology)のCとIgEのEを加えました。
4、アトピー性皮膚炎における抗原
アトピー性皮膚炎における抗原は、ダニ、花粉、カビなどの環境抗原と卵白、牛乳、米、小麦などの食餌性抗原に大別されます。従来、皮膚科医が環境抗原を、また、小児科医が食餌性抗原を重視していたことは衆知のことです。アトピー性皮膚炎と環境抗原との関連に関しては既に多くの論文があり、また、皮膚科医なら誰も異存のない点と思いますが、ここでは紙面の関係で詳細を省きます。最近、私たちも、100人以上のアトピー性皮膚炎患者を対象として抗原の統計的観察を報告していますで参照していただきたいと思います2)。問題は、食餌性抗原です。
一般的には、食餌性抗原に対するアレルギーは、乳児ないし幼児期のアトピー性皮膚炎発症早期に出現し、しだいに消退し、以後ダニなどを中心とする環境抗原に対するアレルギーに変わっていくと考えられています3−5)。しかし、最近、私たちは、104例のアトピー性皮膚炎のみを有する患者と、41例のアトピー性の喘息ないしアレルギー性鼻炎のみを有する16歳以上の患者について、ダニ、花粉、カビ、食物抗原、などに関して、RAST、patch test を施行したところ、アトピー性皮膚炎の患者のグループが気道アレルギー患者のグループに比較して、食物抗原に対する反応の陽性率が有意に高いことを見いだしました。以上の結果を踏まえて、アトピー性皮膚炎の抗原としては、環境抗原(A)と食物抗原(D) を公式に加えました。
5、角層のバリアー機能
古くから、アトピー性皮膚炎患者皮膚は乾燥していることは周知の事実です。そこで、Watanabe ら6)は、アトピー性皮膚炎患者非病変部および健常人皮膚の角層水分量を角層表面高周波伝導度を指標として測定し、一方、角層バリアー機能をEvaporimeter を用いた経表皮水分喪失量で測定しました。その結果、アトピー性皮膚炎患者においては、非病変部においても角層水分含量およびバリアー機能が低下していることが明らかになりました。その後、Imokawaら7)は、アトピー性皮膚炎患者皮膚においては、角層水分保持およびバリアー機能維持に重要な役割を示す角質細胞間脂質、とりわけ、セラミドが低下していることを報告しました。そこで、アトピー性皮膚炎を理解するためには、角層機能を無視できないということで、公式にBarrier(B)を加えました。
6、カビ
以前から、常在真菌であるカンジダが消化管で過剰に増殖するとさまざまな症状、疾患を惹起するという概念、慢性カンジダ過敏症候群が提案されています。また、消化管に常在するカンジダ、あるいは、皮膚のマラセチアがアトピー性皮膚炎患者においてアレルゲンとして認識されているという報告もなされています8、9)。我々の検討でも2)、アトピー性皮膚炎患者において、カンジダに対する RAST score と食物に対する RAST score がよく相関し、カンジダと食物アレルギーとの間に何らかの関連が示唆されています。
7、アトピー性皮膚炎の公式を利用したアトピー性皮膚炎の諸検査の意義
今回提唱したアトピー性皮膚炎の公式を利用すると、実際に行っている検査がいかなるものを対象にして行われているかが容易に理解されます。以下にその概要をまとめました。
アトピー性皮膚炎(AD)= AxBxCxDxExFxG
A(Air):ダニなどの環境抗原の検索 (RAST, Prick test, Patch test)
B(Barrier):角層機能 (TEWL, 角層水分量測定)
C(Cellular immunity):細胞性免疫 (Prick test, Patch test)
D(Diet):食餌性抗原の検索 (RAST, Prick test, Patch test,Double-blind placebo-controlled food challenge)
E(IgE):血中のIgE の測定(RIST, RAST)
F (Fungus):カビに対する(RAST, Prick test, Patch test)
G(Genetics):家族歴の聴取
8、アトピー性皮膚炎の公式を利用したアトピー性皮膚炎の治療の理解
同様に、この公式を利用してのアトピー性皮膚炎それぞれの治療法の位置づけを以下にまとめました。
アトピー性皮膚炎(AD)= AxBxCxDxExFxG
A(Air):生活環境からダニ、カビなどを減少させる工夫。
1.ダニ防止布団、カバーの使用
 2.部屋の掃除
B(Barrier):いわゆるスキンケアー
 1.入浴と保湿剤の使用
 2.存在する湿疹性病変の治療(ステロイド軟膏の使用)
C(Cellular immunity):細胞性免疫反応の抑制
 1.ステロイド軟膏の使用
 2.ステロイド内服、筋注
 3.光線療法:UVBあるいはPUVA療法
 4.抗アレルギー剤内服
 5.タクロリムス軟膏外用
D(Diet):食事性アレルゲンの除去
 1.除去食療法
 2.インタールの使用
E(IgE):IgEを低下させる治療法は確立していない
 1.抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤の使用
F (Fungus)
 1.糖分を控えた食事にカンジダの繁殖を抑える?
 2.抗真菌剤の外用ないし内服
G(Genetics):有効な対処方法はない。
9、アトピー性皮膚炎の公式のまとめ
以上、アトピー性皮膚炎の概略を説明する公式を説明しました。複雑なアトピー性皮膚炎を簡略に説明するため、その詳細あるいは、まだ、確立していない問題点などはとりあげませんでした。引用文献は、私たちのアトピー性皮膚炎に対する考え方を理解していただくのに最小限必要なものにとどめました。
 

文献

  • Bos, J.: Atopic Dermatitis in "Skin Immune System", 2 nd edition,page 497,1997
  • Tanaka, M. et al.: Arch Dermatol 130: 1393, 1994
  • Kajosaari, M.: Acta Pediatr Scand 71: 815, 1982
  • Rudzki, E. et al.: Dermatologica 180: 82, 1990
  • Guillet, G. et al.: Arch Dermatol 128: 187, 1992
  • Watanabe, M. et al.: Arch Dermatol 127: 1689, 1991
  • Imokawa, G. et al.: J Invest Dermatol 96: 523, 1991
  • Savolainen, J. et al.: Clin Exp Allergy 23: 332, 1993
  • Svejgaard, E. et al.: Acta Dermato-Venereol. Suppl 144: 140, 1989
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