MESSAGE 教授からのメッセージ

Department of Dermatology,
Tohoku University
Graduate School of Medicine

当教室で学ぶ皮膚科学の考え方

現在の医学部カリキュラムでは、卒前教育において皮膚科学を詳しく勉強することはありません。それは医師国家試験の出題からみても分かります。つまり、皮膚科学をしっかり学ぶということは、皮膚に軸足を置いて医学を新しい観点から捉え直す作業と言えます。皮膚科学は皮疹を伴うすべての疾患を扱うので、卒前教育で学んだ知識を総動員してこの作業に取り組むことになります。新生児から高齢者まであらゆる年齢層の様々な基礎疾患を持った患者さんが対象となるため、内科や外科の知識のみでなく、様々な診療科の知識が必要になります。つまり、皮膚科学を極めようとすると、必然的に診療科の枠を越えて横断的に医学を学び直すことになります。

もう一つ、皮膚科学には大きな特徴があります。それは病理診断です。皮膚は低侵襲で生検が可能なため、疾患の本態を病理組織像として目で見ることができます。しかし、ここで確認できるのは動的病態の中のほんの1コマに過ぎません。例えるならば、病気を作る細胞たちの日常をストリートスナップで捉えたようなものです。撮られる側はおめかしして準備しているわけではないので、写りが良いこともあれば、写りが悪いこともあります。こうして捉えた病態の素顔を、皮疹が示すマクロ所見、患者さんが語る病歴、そして検査データを統合した文脈で読み解き、診断へと繋げていきます。年々治療の選択肢も増えており、従来皮膚科が得意としてきた外用療法や光線療法、腫瘍に対する外科治療と免疫療法、免疫疾患に対する免疫抑制薬や分子標的薬による治療など、内科と外科の境目がなく、generalistであるとともにspecialistであることが求められます。広い視野を持って個々の患者さんの診断・治療に向き合うことで、学生時代の断片的だった知識が皮膚科学を軸に整理されていきます。

この過程は非常に爽快ですが、一定のレベルに達すると、無限に広がる荒野の真ん中で遠く地平線を眺めるような気持ちになる瞬間が訪れます。途方に暮れることになりますが、裏を返すと、そこには無数の夢とロマンが広がっています。臨床能力が一定のレベルに達すると、さらなる向上にはリサーチマインドが不可欠です。研究活動は「夢とロマンに満ちた自己表現の場」と言語化することができます。私自身は「転写因子FLI1の発現異常に基づく全身性強皮症病態一元化仮説」をテーマとし、2006年以降現在まで15年以上にわたり基礎研究・臨床研究を続けてきました。その過程で全身性強皮症という疾患に対する独自のphilosophyを確立するに至り、研究を通じてそれを検証し、確証が得られた知見を世界に発信してきました。これは一例に過ぎませんが、もちろん自己表現の場は研究論文である必要はありません。個々の先生方の自己表現は異なっていて良いと考えています。その時々に考えたこと、感じたことを皮膚科医として生きた足跡として残すことは何らかの形で医学の発展に寄与するはずです。

先人が敷いたレールの上を全力で駆け抜けることができた皆さんなら、きっと未来の皮膚科医が走るレールを敷くことができるはずです。皮膚科学は皮膚を軸に医学を捉え直す学問、そしてその過程で無数の夢とロマンに出会える学問だと言えます。その広がり故に、きっと個々の先生方にあったライフワークを見つけられるはずです。当教室では、若い先生方が独自のライフワークに出会い、それを自己表現する機会を全力でサポートしていきます。

門戸開放

教室が発展していくうえで「人材の多様性」は不可欠です。東北大学建学以来の伝統である「門戸開放」の理念に基づき、当教室では出身大学の異なる先生方がそれぞれの目的・目標をもって和気藹々と診療・研究に従事しています。様々な得意分野と個性を持つ人材に教室の仲間に加わっていただき、互いの多様性を尊重し、切磋琢磨する中で自己肯定感を育み、一人一人が未来の自分を支える軸を確立していくような教室を目指していきます。教育・研究・診療を通じて、「人の輪」を作ることができるのは大学の最大の魅力です。一人でも多くの方が私たちの輪に加わり、一緒に新しい教室を作ってくれることを期待しています。

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